蜂の巣駆除の現場に立ち続けて三十年になる私が、若手によく言い聞かせているのは、どれほど経験を積んでも蜂という生き物を決して侮るなということです。一見、静かに見える巣であっても、その内部には何千という命が詰まっており、一瞬の油断が命取りになるのがこの仕事の現実です。ある現場では、住宅の戸袋の中に作られた巣を駆除しようとした際、隙間から溢れ出したキイロスズメバチの集団に防護服の上から執拗に攻撃を受けました。彼らは単に刺すだけでなく、毒液を空中に霧散させ、防護服のメッシュ越しに目や皮膚を狙ってきます。この毒液には仲間に攻撃を促すフェロモンが含まれているため、一匹に狙われれば最後、周囲の蜂全てが標的に対して猛烈な攻撃を開始します。蜂の巣駆除において、私たちが最も恐れるのはこうした集団の連鎖反応です。また、高所での作業時には、蜂の攻撃を受けたショックで足場を踏み外す墜落事故のリスクも常に隣り合わせです。蜂に刺される痛みも凄まじいものですが、それ以上にパニックによって正常な判断ができなくなることが、最も恐ろしい敵となります。蜂の巣駆除は、ある意味で自分自身の冷静さを保つための精神修行のような側面もあります。現場に到着したとき、まず私が行うのは蜂の動きをじっくりと観察することです。働き蜂の数、巣への出入りの頻度、そして周囲の環境。これら全ての情報を統合して、ようやく作戦を立てます。無理に巣に近づくのではなく、いかに蜂を驚かせずに制圧するか。それがプロの蜂の巣駆除の真髄です。また、駆除を終えた後、住民の方々がホッとした表情を見せてくれることが、この過酷な仕事を続ける唯一の原動力となっています。しかし、その一方で、毎年自力で駆除を試みて大怪我をしたり、最悪の事態になったりする方が絶えません。私たちは単に商売として業者に任せろと言っているのではありません。現場で日々、蜂という死神の隣で作業をしているからこそ、その本物の危険を知っているのです。蜂の巣駆除は、知識と装備、そして覚悟が揃って初めて成り立つ特殊な任務です。その重みを、一人でも多くの方に理解していただきたいと願っています。