夜、就寝前に枕元でカサカサと動く小さな影。慌てて電気をつけて確認すると、そこには数ミリ程度の茶色い虫がいます。その平たい体つきを見て、多くの人は「ついに寝室にまでゴキブリの幼虫が侵入したのか」と戦慄しますが、もしその虫が非常に平らで、かつあなたが朝起きたときに激しい痒みを感じているのであれば、それはゴキブリではなくトコジラミ(ナンキンムシ)という、より直接的な脅威かもしれません。トコジラミは成長段階によってサイズが異なりますが、幼虫や成虫は一見するとゴキブリの幼虫に似てるため、初期対応を誤るケースが非常に多いのです。ゴキブリの幼虫との決定的な違いは、その「食性」にあります。ゴキブリは食べカスや有機物を狙いますが、トコジラミは人間の血液のみを唯一の栄養源とします。そのため、彼らはキッチンではなく、人間が長時間静止する場所、つまりベッドやソファの周辺を集中的に生活拠点にします。トコジラミは数ミリの隙間さえあれば潜り込めるため、マットレスの縫い目、ベッドフレームのジョイント部分、壁紙の剥がれ目などに隠れて、人間が寝静まるのを待っています。また、トコジラミが発生している場所には、血糞(けっぷん)と呼ばれる、彼らが吸った血を排泄した黒いインクのような汚れが付着することが多く、これがゴキブリの糞と見間違えられることもあります。しかし、トコジラミの汚れは拭き取ろうとすると滲むのが特徴です。ゴキブリの幼虫に似てるという見た目だけで判断し、市販のゴキブリ用殺虫剤を振りまくと、トコジラミは薬剤の刺激から逃れるためにさらに部屋の奥深くや隣室へと拡散し、かえって被害を深刻化させてしまいます。現代のトコジラミは多くの一般的な殺虫成分に対して強い耐性を持っているため、もし寝室でこの虫を発見したならば、迷わずプロの駆除業者に相談することをお勧めします。彼らを根絶するには、高度な加熱処理や、特殊な薬剤の選定が必要だからです。ゴキブリは不衛生の象徴ですが、トコジラミは旅行者のカバンや公共の椅子を介して、どんなに清潔な家にも侵入する「移動の害虫」です。不気味な茶色の影に怯える夜を終わらせるためには、相手の正体を冷徹に見極める知識が、何よりも強力な護身術となるのです。