トイレという空間は、人間にとっては用を足すための機能的な場所に過ぎませんが、多くの虫たちにとっては、生命を維持し、子孫を繁栄させるための理想的な条件が揃った「楽園」となり得ます。なぜ、トイレはこれほどまでに虫を惹きつけるのでしょうか。その理由は、虫が生きていく上で不可欠な「湿度」「暗さ」「餌」という三つの要素に集約されます。第一に、圧倒的な「湿度」の高さです。トイレには便器の中に常に水が溜まっており、タンクの中にも水が蓄えられています。手を洗うための水道があれば、さらに湿度は高まります。多くの虫、特にチョウバエやカマドウマ、ゴキブリといった害虫は、乾燥を極端に嫌い、湿潤な環境を好みます。常に一定以上の湿度が保たれているトイレは、彼らにとって砂漠の中のオアシスのような存在なのです。第二に、「暗さ」です。トイレは家の中でも窓がなかったり、あっても小さかったりすることが多く、比較的暗い空間です。また、便器の内部や排水管、タンクの中は完全な暗闇です。夜行性であったり、光を嫌う習性を持つ虫たちにとって、こうした暗い場所は、外敵から身を守り、安心して活動・繁殖できる絶好の隠れ家となります。第三に、「餌」の存在です。これは、トイレの様式によって異なります。汲み取り式便所では、排泄物そのものがカマドウマやハエの直接的な餌となっていました。現代の水洗トイレでは、排泄物が直接の餌になることはありませんが、排水管の内部に蓄積する汚泥や、そこに発生するバクテリア、カビなどが、チョウバエの幼虫にとっては極上のご馳走となります。また、床に落ちた髪の毛やホコリなども、一部の虫にとっては食料となり得ます。このように、トイレという限られた空間には、虫たちが生息するために必要な条件が高密度で凝縮されています。だからこそ、私たちは定期的な清掃と換気を心がけ、彼らにとっての楽園を、人間にとっての快適な空間へと変えていく必要があるのです。
なぜトイレは虫の楽園になりやすいのか