「もったいない」という気持ちから、虫が湧いた小麦粉を加熱して使ってしまおうと考える人がいるかもしれません。しかし、その一口が、深刻な健康被害を引き起こす引き金になる可能性があることをご存知でしょうか。虫が湧いた小麦粉を摂取することの最大のリスクは、食中毒ではなく「アレルギー反応」、特に命に関わる可能性のある「アナフィラキシーショック」です。小麦粉に大発生するコナダニは、アレルギーの原因物質(アレルゲン)の塊です。ダニアレルギーを持つ人が、コナダニの虫体やフン、死骸が大量に含まれた小麦粉を摂取すると、体がそれを異物とみなし、過剰な免疫反応を起こしてしまうのです。このアレルギー反応は、加熱調理によって防ぐことはできません。ダニのアレルゲンは熱に強く、焼いたり揚げたりしても、そのアレルギーを引き起こす性質は失われないのです。この現象は、特にお好み焼きやホットケーキ、たこ焼きなどのミックス粉で発生報告が多く、「パンケーキ症候群」とも呼ばれています。症状は、摂取後数分から数時間以内に現れ、皮膚のかゆみやじんましんといった軽いものから、腹痛や嘔吐、喘息のような呼吸困難、血圧低下、意識障害といった重篤なものまで様々です。最悪の場合、呼吸ができなくなり、命を落とす危険性もあります。自分自身がダニアレルギーだと自覚していなくても、花粉症やアトピー性皮膚炎など、他のアレルギーを持っている人は、交差反応によって症状が出る可能性があり、注意が必要です。また、アレルギー体質でない人でも、大量の虫やフンが混入した食品を食べることは、衛生的にも精神衛生的にも決して良いことではありません。たかが小さい虫と侮ってはいけません。その背後には、あなたの健康を脅かす重大なリスクが潜んでいるのです。小麦粉に虫を発見したら、迷わず廃棄する。それが、あなたとあなたの家族の健康を守るための、唯一の正しい選択です。