数ある市販のアリ駆除剤の中でも、長年にわたって絶大な人気と信頼を誇るのが、「アリの巣コロリ」に代表される、ベイト剤(毒餌)タイプの駆除剤です。目の前のアリを退治するのではなく、巣ごと全滅させるという、その画期的な効果は、どのような仕組みで生まれるのでしょうか。その秘密は、アリの生態と習性を、巧みに利用した、二段階の巧妙な戦略にあります。第一の戦略は、「アリを騙して、毒餌を巣に運ばせる」ことです。アリの巣コロリの中には、アリが好む黒蜜や砂糖といった、甘くて栄養価の高い餌が仕込まれています。しかし、そこには、フィプロニルなどの、遅効性の殺虫成分が、ごく微量、混ぜ込まれています。働きアリは、これを本物の餌だと信じ込み、その毒餌をせっせと巣へと持ち帰ります。この「遅効性」というのが、最大のポイントです。もし、即効性の毒であれば、働きアリはその場で死んでしまい、毒が巣の中に運ばれることはありません。第二の戦略は、「巣の中で、毒を連鎖させる」ことです。巣に運ばれた毒餌は、まず、巣の中にいる他の働きアリや、女王アリ、そして幼虫たちに、口移しで分け与えられます。これにより、直接、毒餌を食べに行っていない、巣の内部のメンバーにも、毒が広がっていきます。さらに、アリには、仲間のフンや、死骸を食べるという習性があります。毒餌を食べて死んだアリの死骸や、そのフンの中には、まだ殺虫成分が残っています。これを、他のアリが食べることで、毒は、まるでドミノ倒しのように、次から次へと連鎖していくのです。この二重の連鎖効果により、巣の奥深くにいて、決して外には出てこない女王アリをも、確実に仕留めることができます。女王アリを失ったアリの巣は、新たな卵が産み落とされることがなくなり、やがて、そのコロニー全体が、自然に消滅していくのです。アリの巣コロリは、アリの社会的な習性を逆手に取った、非常に高度な心理戦とも言える、科学的な駆除方法なのです。