それは、家族みんなが楽しみにしていた週末の夜のことでした。夕食は、子供たちが大好きな手作りのお好み焼きにしようと、私は意気揚々とキッチンに立ちました。戸棚から、数ヶ月前に開封して輪ゴムで留めておいたお好み焼き粉の袋を取り出し、ボウルに中身を移そうとした、その瞬間でした。サラサラと落ちるはずの粉が、どこかダマになっているように見えます。不思議に思って袋の中を覗き込むと、信じられない光景が目に飛び込んできました。粉の表面が、まるで生きているかのように、うごめいていたのです。白い粉と見分けがつかないほどの無数の小さな虫が、蠢いていました。全身の血の気が引くのを感じました。すぐに袋の口を閉じましたが、一度見てしまった光景は脳裏に焼き付いて離れません。最初は「もったいない」という気持ちが頭をよぎりましたが、スマートフォンで調べていくうちに、それがコナダニというダニの一種であること、そして摂取するとアナフィラキシーショックを起こす危険性があることを知り、恐怖で体が震えました。まさか、あの粉で家族に危険な思いをさせるところだったなんて。悪夢はそれだけでは終わりませんでした。もしかして、と思い、隣に置いてあった小麦粉や片栗粉、パン粉の袋を恐る恐る確認すると、案の定、そのほとんどが同じ状態になっていたのです。私の管理の甘さが招いた悲劇でした。その夜、私たちはお好み焼きを諦め、キッチン中の粉製品や乾物をゴミ袋に詰める作業に追われました。それは、まるで災害の後片付けのようでした。この苦い経験から学んだことは、食品の保存に対する意識の重要性です。開封済みの粉は必ず密閉容器に入れて冷蔵庫へ。この簡単なルールを守らなかっただけで、たくさんの食材と、楽しいはずだった家族の時間を失ってしまいました。「たかが粉、されど粉」。あの日以来、この言葉は我が家の家訓になっています。